これは以前TV用(30分枠)に書いた怪獣物のシナリオです。
お蔵入りになっていましたが、映像化の予定もないのでここに公表します。 |
ガエン 作 殿様ギドラ(2002年10月21日脱稿) 主 な登場人物 大 杉通雄〈みち お〉(38歳)…科学評論家 金 山 治(47歳)…超常現象研究家 川 島陽子(26歳)…雑誌ライター 多 丸英郎(75歳)…大杉の恩師 ガ エン…正体不明の怪獣。6本脚のコモドドラゴンのようなフォルム。背中の高さが50メートルほどで頭から尻尾の先までは200 メートルもありそう。口には大きな牙。赤い熱線(光なのかガスなのかわからない)を吐く。 シー ン1牙焔神社本殿内・夜 大杉・金山・川島・カメラマンと宮司が本殿天井に描かれた絵を見ている。 その絵は、獣のようにも虫のようにも見える六本脚の怪物を描いたもので、逆巻く炎の中でさらに口から火を吐いて猛り狂う様子であ る。 カメラマンは人物の顔や低い位置から人物なめで天井の絵を撮影したりしている。 川島はMDレコーダーとICレコーダーを片手にまとめて持って、大杉たちの会話を録音している。もう一方の手に持っている取材メ モ帳には「雑誌『多異論』用 日塚村群発地震 現地入り 牙焔神社取材…」などなど記されている。 注・牙焔神社、日塚村等地名はすべて架空のものです。概ね埼玉・群馬の県境付近、両神山あたりをイメージしています。 宮 司「この神社は非常に歴史が古くて、大和朝廷成立以前からここにあったと言われています」 金 山「この絵も?」 宮 司「いや、これは後世の作ですよ。江戸期に牙焔蟻(がえんぎ)の想像図として描かれたものです」 大 杉「がえんぎ?」 宮 司「ええ。この神社の名前の由来にもなってますが、キバに火焔のえん、アリと書いてがえんぎ。怪物の名前です。村では簡単にガエ ンと呼んでいます」 金 山「きっとこの地で権勢を振るっていた古代豪族の名前だったんでしょうな。朝廷に成敗されて、怪物として祭られることになったん でしょう」 川島、口を挟む。 川 島「金山さんがそんな当たり前のことを言い出したら話が終わっちゃいますよ」 金 山、少しむっとして、 金 山「私はいつでもまともなことしか言わないよ。その滅ぼされた豪族の怨霊が…」 地 鳴りとともに地震が起こり、金山の発言が途切れる。 大 杉「(呆れ顔で)怨霊が群発地震を起こすというのはどうも飛躍しすぎじゃないですか」 揺れが小さくなり、一同つかの間安堵の表情。しかし、遠くのようではあるが激しい土砂崩れの音が聞こえてくる。同時に正体不明の 咆哮も。 宮 司「…ガエン?」 大 杉・金山・川島・カメラマンは屋外へ駆け出す。 シー ン2 神社の境内 本殿から飛び出してきた4人、音の方を探して見回す。 一同、本殿背後の山(日塚山)に注目。(神社はその山裾に立てられていて、かなり山が近い) シー ン3 日塚山の中腹 森林の一部が剥がれ落ちるように土砂崩れが起きていて、崩れた部分の真ん中(穴がある)で赤い光が明滅している。 シー ン4 神社境内 本殿越しに土砂崩れの跡と光を見ている4人。 カメラマンは写真を撮る。 大 杉「(つぶやく)噴火? まさか…」 そこに再び吠え声。 いつの間にか4人のそばに来ている宮司。 宮 司「言い伝えの通りだ。あれは牙焔蟻。ガエンだ」 金山、宮司の顔を見つめる。 シー ン5 日塚山 の中腹 光る穴から赤い光条が斜め下へ発射される。 シー ン6 神社境内 驚く5人の顔・顔・顔…。 シー ン7 日塚山全体とふもとの神社を含む集落 日塚山の中腹から発射された光条が森林や集落をランダムになめ回す。 シー ン8 光条の威力 木々や家は燃え上がる。 田圃は蒸発。土壌は煙を上げて赤く発光。 タ イトル 燃える炎をバックに文字「ガエン」。 火災発生で家から逃げ出したり、まだ燃えていない家の戸を叩いて注意を促す人々や消防団が消火ポンプを運び出して放水する映像を バックにスタッフ&キャストロール。 シー ン9 焼けた村・日中 全焼・半焼の家々。ところどころから煙が上がっている。 消防車が多数集結している。 焼けた家の前で泣き叫びながらうずくまっている人。 上空をヘリコプターが飛び回り、村のあちこちでテレビ取材班が立ちリポート。 その中に神社だけが無傷で残っている。 シー ン10 神社の境内 金山がテレビのインタビューに答えている。 リ ポーター「怪物、ですか?」 金 山「そう。この神社に祭られているガエンが蘇ったのだよ。伝説の通り、火を吐いてあたりのものを焼き払うところをこの目で見 た!」 リ ポーター「怪物の姿も見たんですね?」 金 山「恐ろしい声だった。地獄から響いてくるような、この世に復讐しようとでも考えているような…」 リ ポーター「どんな姿でしたか?」 金 山「それは、本殿の天井に描かれているよ」 リ ポーター「金山さん、見たんですよね?」 金 山「ん? うるさいな君は」 シー ン11 山道 大杉・川島・カメラマンと地元消防団の団長が山を登っている。 川 島「大杉先生はなんだと思いますか?」 大 杉「地震を伴っていることを考えれば、火山活動か…。しかし、溶岩の噴出は見られないし、自分の目を信じれば赤い光線が発火の原 因とも思えるし…」 団 長「あの、オカルト研究家? 金山っていう人がガエンだって言ってますよね」 大 杉「金山さんの考えが当たってるかもしれませんよ」 川 島「(意外だ、という表情)大杉先生、科学者としてはもう降参ですか?」 大 杉「(ニッと笑って)いやいや。この山で大規模な火災を起こす不思議な現象があることは確実です。そのメカニズムはまだわかりま せんが、古代人がその現象をもとにガエンという怪物を想像したなら金山説が当たってるとも言えるわけですよ」 シー ン12 土砂崩れの現場 大杉たち一行が森の中を抜けて、現場近くに出てくる。 山肌が崩れ落ちて、立木と一緒になった土砂が下方の森に覆い被さっている。 大杉たちは崩れた領域の下の端に左方から近づいている。 消 防団長「ほんとうにここから光線が出たんですか?」 大杉、川島、それぞれに頷く。 大杉、見上げたまま、 大 杉「あの穴がなんなのか…」 さらに前へ出ようとする大杉を消防団長が引き留める。 団 長「危険です。まだ崩れるかもしれません」 シー ン13 山に開いた穴 穴の縁から少量の土砂がこぼれる。 シー ン14 土砂崩れの現場 カメラマン、望遠レンズで穴のアップを撮影。 カ メラマン「あ?」 と 素っ頓狂な声を上げる。 シー ン15 山に開いた穴 さらに土砂が崩れ、穴の奥からガエンが顔を出す。 軽く一声吠える。 シー ン16 土砂崩れ現場 目を見開く大杉。 カメラマン、夢中で撮影。 消防団団長と川島がそれぞれ大杉とカメラマンを引っぱって退散。 団 長「危ない!危ない」 川 島「逃げましょう」 シー ン17 穴から顔を出しているガエン のんびりと麓を見下ろしているような風情。 シー ン18 山道 駆け下りていく大杉たち4人。 シー ン19 日塚山全景 遠くからでも顔を出しているガエンが見える。 そこへ近づいていくテレビ局のヘリコプター。 ヘリを狙ってガエンが熱線を吐く。 空中で爆発するヘリコプター。 シー ン20 日塚村全景(数日後) 自衛隊の車輌が多数集結していて、機関砲・戦車がその砲門をガエンの穴に向けている。(輸送車などは集落の中。機関砲10機程 度・戦車3台は村はずれに山を取り囲むように展開している。) シー ン21 牙焔神社境内 本殿の裏に天幕を張って自衛隊の指揮所が設営されており、自衛官のあわただしい動きがある。 シー ン22 会議室(日塚村を含む浦山市【イメージは秩父市】の市役所内) 部屋の前に「ガエン対策本部」の看板。 室内では対策委員会の記者会見が行われている。 10人の科学者、政治家、自衛官が記者団に向き合って席に着いている。中央は老年の政治家。上手端に大杉もいる。 委員の背後には日塚村の地図や自衛隊の配置図、ガエンの写真などがホワイトボードに掲示されている。 政 治家「すでに複数の人命も失われていることを勘案すれば、研究のために捕獲するとかこのまま放置するというわけに行かないという のが結論であります。本日10時にガエンを殺します」 記 者の一人「殺すにしても自衛隊の必要がありますか?」 政 治家「計画の具体案については大杉くんから説明してもらおう」 と、 視線を大杉のほうへ。大杉、軽く頷いて、 大 杉「ガエンの全身はまだ確認さ れておりませんが、頭部の大きさだけを考えても、猟銃やライフルで致命傷を与えられるとは考えられません。また、その食性や代謝 系を調べる手だてもありま せんから、(ここで生物学者が頷いている)毒物で抹殺することも考えられませんでした。われわれ科学者グループが提案したのは、 ガエンの穴に消火弾を打ち 込んで、穴の中を酸欠状態にして、空気を求めてガエンが穴から出てきたところを砲撃するという作戦です」 記 者の一人「あの熱線でやられませんか?」 大杉、ちょっと渋い顔。 大 杉「確かに、ガエンの熱線に関してもほとんど分かっていませんから危険ではあります。第一には出てきたガエンに速やかに集中砲火 を浴びせて熱線を吐く間もなく殺してしまうことです」 こ こで立ち上がってホワイトボードの図面を指す。 大 杉「しかし、万が一を考えて、機関砲や戦車の前に、このような防護壁を置きました。この容器の中には水が注入されていますから、 熱線を浴びても沸騰蒸発するまで持ちこたえる事が出来るでしょう」 記者団の中に川島陽子もいる。 川 島「穴からの追い出しはうまく行きますか?ガエンは空気を吸うんですか?」 大杉、真顔で川島を見つめて、 大 杉「鼻の穴が確認されていますから、間違いなく」 シー ン23 市役所前 大型バスが一台玄関前に駐車しており、市役所内から対策委員や報道陣がわらわらと出てくる。 市 役所職員の声「バスには若干余裕がありますので、車輌をお持ちでない報道の方はお乗り下さい」 バスに乗り込む人、写真・ビデオを撮影しているマスコミ、歩きながらインタビューを受けている人などなど。 シー ン24 バス車内 大杉が席に着くと、となりに川島陽子が滑り込んでくる。 川 島「大杉先生」 大杉、おや、と川島を見る。 大 杉「やあ。川島さんはフリーライターでしょう?こんな取材も許可されるの?」 川島、いたずらっぽく笑って、 川 島「いろいろ裏技があるのよ。(話題を変える感じで)大杉先生、実力者なんですね」 大 杉「え?どうして?」 川 島「だって、対策委員会の科学者グループを仕切ってるんでしょう?」 大 杉「あははは。(と笑い出したのをぐっとこらえてから小声になり、川島だけに聞こえるように)一番の若造だからいざというとき責 任をとらされるんだよ。ガエンの第一目撃者ということで祭り上げられたというところかな」 川 島「(こちらも小声で)学者の世界にもそういうことってあるんですね」 大 杉「(激しく頷いて)あるある。しかも、専門が総合科学っていう新しい分野だから旧来の科学者連中から胡散臭い目で見られている し」 川 島「科学評論家じゃなかったんですか?」 大 杉「それは、君たちマスコミが貼ったレッテルだよ。ま、科学全体を見渡して各分野の橋渡しをするなんて学問といえるのかどうかわ からないけどね」 バスが走り出す。 シー ン25 日塚村 焼け跡がなまなましい日塚村に対策委員を乗せたバスが入ってくる。 シー ン26 牙焔神社境内 鳥居の前にバスが横付けになって、車内から降りてくる人々。 自衛隊指揮所は特に動きもなく、詰めている自衛官たちは全員じっとガエンの穴の方を見ている。そこに到着する市役所へ行っていた 士官。指揮官と何事か話し合う。 科学者グループは指揮所の横にある別のテントで用意されたヘルメットを被りながら待機。マスコミ関係もそこに集まっている。 大杉の傍らに立っている川島。 川 島「(ガエンの穴の方に視線を送ったまま)殺すしかないんですよね…」 大杉が口を開きかけたとき、金山の声。 金 山「無駄だよ」 大杉と川島、声の方を見る。 大 杉「金山さん、まだいたんですか」 金山は、大杉の方をいまいましそうに見てから視線を外し、 金 山「ガエンに大砲を撃っても無駄だよ」 川 島「どういうことですか?」 金 山「幽霊に弾は当たらない」 大杉、金山を無視。 川 島「よくわかりませんけど」 金 山「ガエンは滅ぼされた豪族の怨念なのだよ。それが想像上の動物の姿を借りて我々の目に見えているのだ」 自衛隊指揮所に各部隊から無線で報告が入る。 「消 火弾装填完了」「戦車隊準備よろし」… シー ン27 村外れの攻撃隊 攻撃命令を待って緊張している戦車、その他機関砲・迫撃砲の射手たち。 機関砲や戦車の向こうにガエンの穴が見えている。 シー ン28 牙焔神社境内・自衛隊指揮所 指揮官、指揮所内にある標準時計をちらりと見て、 指 揮官「消火弾発射」 通信員が無線で伝令。 シー ン29 迫撃砲隊 部隊長の声。 部 隊長「撃てーーーーっ」 一斉に砲撃する迫撃砲。 (迫 撃砲は消火弾の発射のみ。5門ほどと考えています) シー ン30 ガエンの穴 消火弾が次々と着弾。 穴の中へ命中するもの、穴の縁に当たって白い煙を上げるもの…。 穴の中から白煙があふれ始める。空気より重いガスなので、穴から流れ出るようにこぼれている。 シー ン31 牙焔神社境内 見つめている大杉ら民間人。 シー ン32 ガエンの穴 消火弾の嵐が止んで、しばしの静寂。穴の中からはもくもくと白い煙。 ガエンの咆哮が聞こえる。 煙を破ってガエンが顔を出す。 シー ン33 戦車隊 部隊長の声 部 隊長「撃てーーーっ」 連続的に砲撃する戦車隊 シー ン34 ガエンの穴 ガエンの顔の周りで激しい爆発が起こる。一瞬顔を引っ込めるガエン。しかし、首を振りながら再び顔を出し、そのまま穴から這い出 してくる。 戦車の攻撃は確実にガエンに命中。 爆炎でガエンの体はよく見えない。 シー ン35 牙焔神社境内 轟く爆音。 大 杉「(つぶやく)大きい。陸上であんな大きな生物が存在可能だったのか。(ここで金山の方を見て)ちゃんと大砲の弾が当たってま すよ」 金 山「そうか。あまりにも強い思念のために物質化したのだな」 大杉、うんざりの表情。 川 島「火なんか吐かなきゃ、殺されることもなかったのに…」 シー ン36 ガエンの穴 ガエン、足を踏み変えるようにして穴の前でぐるぐる回っている。ここで、六本脚であることがはっきりする。 砲撃は執拗にガエンに命中し続ける。 ガエン、弾が飛んでくる方向に気が付いて、山の麓を睨む。 その顔に激しく着弾。ガエンは無傷。 ガエン、攻撃隊のほうへ歩き出す。 シー ン37 牙焔神社境内 大杉、驚愕。 大 杉「六本脚…。大砲も平気。うそだろ」 シー ン38 村外れの攻撃隊 「撤 退、撤退!」という声がかすかに聞こえる中、部隊は混乱している様子。 機関砲を撃ち続ける隊員、武器を捨てて逃げる隊員、戦車は後退しながら砲撃しているものもあれば、その場にとどまっているものも ある。 シー ン39 斜面の森林 ガエン、立ち止まって口から熱線を吐くと横になぎ払う。 ガエンの目の前の木々が焼き切られて倒れながら激しく炎上。 シー ン40 村外れの攻撃隊 ガエンの熱線が地面すれすれに飛んでくる。 爆発的に蒸発する防護壁、融ける戦車などなど。 そこへガエンが暴れ込んでくる。 機関砲や戦車を踏みつぶし、尻尾でなぎ払い、怒りの咆哮を上げる。 後退している戦車には熱線。 もう砲撃はない。 辺りを見回すガエン。 シー ン41 ガエンの見た目 焼けた村、神社、逃げていく自衛隊、村の中から撮影している何組かのマスコミ取材班、ずーっと遠くで一目散に逃げている誰か…。 シー ン42 村外れ ガエン、動きを止めてわずかに首を傾げるような仕草。 それからくるりと回れ右をして、山の穴のほうへ帰っていく。 シー ン43 街の様子(東京都心)・日中 渋谷(ないし新宿)の街頭大型モニターにガエンの穴の生中継映像。見上げる人もいれば、無関心の人もいる。 大型モニターの画面が切り替わり、現地でインタビューされている金山。 金 山「あれは生き物ではないので す。爬虫類のような体をしていますが、脚が六本とはどういうことでしょう。古代恐竜の生き残り?そんな骨格を持った恐竜がいるん ですか?それにあの骨格で あれほどの巨体をささえることが出来るわけがありません。ガエンは怨霊なのですよ。大昔に滅ぼされた民族の恨みが日本人に復讐す るために物質化したので す。もう死んでしまったものにいくら大砲を撃ち込んでも効くわけがない」 シー ン44 都心の大病院・薄暮 病院外観 シー ン45 病院の廊下 見舞いの花を持って歩いてくる大杉。浮かない顔。 とある病室の前に立って、腕時計を見てからノック。 ドアを開ける。 シー ン46 多丸英郎の病室 大杉が入ってくる。 ベッドにはさまざまなチューブにつながれた多丸。 大杉、深々とお辞儀。 大 杉「先生、ご無沙汰しておりました」 と、 花をベッドサイドへ。 大 杉「本当は先生の好物のうなぎでもお持ちしたかったんですが…」 多丸、にっこりとほほえんで、 多 丸「いいよ、いいよ。口から食べちゃいけない体になってしまったからな」 大 杉「お加減はいかがですか?」 多 丸「うん。体はいうことをきかないが、頭脳は明晰だよ。…私より、大杉君のほうが大変そうじゃないか」 大杉、恐縮の面もち。 大 杉「はあ」 多 丸「あのガエンという奴、なかなかおもしろい存在だな」 大 杉「そうなんです。これまでの理論を覆す生物で、研究することが出来ればどれほど大きな成果が上がることか…」 多丸、大杉の言葉を引き受けて、 多 丸「しかし、そんな悠長なことを言ってはいられない、と。社会を脅かす存在には何らかの対策が必要だ」 大 杉「ええ。自衛隊はもう一度攻撃することを考えているようですが、戦力を増やしたところで撃滅できるものかどうかわかりません」 多 丸「そうだな。前回の攻撃でなんらダメージを負った様子もないのだからねぇ」 大 杉「科学者グループとしては、力押しではなく、科学的にガエンを殺すか、無力化したいと考えているのですが、判断材料がなにもな いのでは、方法も思いつかず…」 多 丸「…(大杉の顔をじっと見つめて)大杉くん、科学者としていまやるべき事がわからんかね」 大 杉「(考えて)ガエンの習性や体組織を分析…」 多丸、大杉に最後まで言わせず、 多 丸「なぜガエンを殺さなければならないのかな?」 大 杉「それは…」 多 丸「一番の問題はなんだ? そのためには何をすればいい? 科学者にほかの分野の人間より優れているところがあるとすれば何 だ?」 大杉、ぱーっと表情が明るくなる。 大 杉「先生、わかりました。ああ、なんてことだ。目先のことにばかり囚われていた」 多丸、ほほえみながら頷いて、 多 丸「大丈夫か? 君は実験計画を立てるのが苦手だったからな。緻密さが足りんのだよ」 大 杉「大丈夫ですよ。対策委員には複雑系の得意な先生もいますし、統計学に長けた方もいらっしゃいます」 多 丸「調子のいい奴だな。ところで、まだ嫁はもらわんのか?」 大 杉「は?」 シー ン47 日塚山・夜 月明かりに照らされた山の遠景。 ガエンの遠吠えが聞こえる。 シー ン48 ガエンの穴・同時刻 穴から顔を出しているガエン。 空を見上げているが、首を降ろすとなにかを探るようにゆっくり首を左右に振る。 シー ン49 会議室 ガエン対策委員の会議。テーブルを囲んで自衛官、政治家、役人、学者が顔を合わせている。 大杉が立ち上がって演説している。 大 杉「みなさん、ガエンが日塚山 から動かないだろうというのは思いこみに過ぎません。いままで移動しなかったことを不思議と考えて下さい。対策には全国規模の避 難計画も必要なのです。そ の立案のために科学者グループの再編を要求します。いまのメンバーに加えて災害研究の専門家を招聘してください」 役人が発言する。 役 人「全国規模の避難? 動物一匹だよ。まあ避難が必要なら計画は行政が考えるよ。学者さんはもっと別のことを…」 大杉、役人の言葉を遮る。 大 杉「日本全国民を、どこへ行く かわからないガエンの動きに合わせて適切に移動させるためのシステムを構築しなければならないんですよ! 全国の道路網、鉄道 網、人口分布、車輌分布を総 合して、場当たり的ではない避難計画を立てる。救援物資の調達や避難民の心理の問題、複雑に絡み合った要素をコントロールするた めのマニュアルを作らなけ ればならないのです。これこそ、科学者でなければ出来ない作業だ。重要なのは、ガエンを殺すことではない。人命を救うことだ! 役所のみなさんは、なわば り意識を捨てて、決定事項を速やかに実行する体制作りをしていただきたい」 自衛官が口を挟む。 自 衛官「我々はガエンを絶対に日塚村から外には出さない!避難計画を打ち出して国民を動揺させる必要はない!」 大杉、きっと自衛官の方を睨んで、 大 杉「その主張には根拠がない。そういう意気込みでやって下さるのはありがたいが、ガエンが日本列島を駆け回った場合のことも考え なければなりません。自衛隊の作戦も避難計画と連動して考えないと、攻撃そのものが余計な被害を生むことになりかねません」 政治家が呆れ顔をする。 政 治家「おいおい。まるで大戦争でも始まるような口振りだな。たかが猛獣一匹じゃないか」 大杉、大きく息を吸い込んで、 大 杉「もちろん、これは戦争ではありません。外交交渉もない、相手の行動原理も分からない。そして、奴は、砲弾にもびくともせず、 鉄をも溶かす熱線を吐くことが出来るのです。戦争以上に扱いにくい事態だと思いませんか?」 シー ン50 どこかの大学の研究室、応接間 大杉と研究室を代表する教授が握手している。 大 杉「それではよろしくお願いします」 そこへお茶を持って入ってくる女子学生。 シー ン51 自衛隊基地の一室 作戦参謀相手に説明している大杉。 大 杉「ガエンは攻撃を仕掛けてきた相手を破壊するために移動することが考えられます。ですから、航空機で攻撃する場合は、避難民の 移動方向を考慮した向きから接近、離脱しなければなりません」 シー ン52 国会議事堂会議室 総理以下閣僚相手に説明する大杉。 大 杉「コンディションレッドとなったら交通の統制が完全に行われる必要があります。政府と地方自治体が一致協力できる体制作りを急 いで下さい」 うなずく総理大臣。 総 理「なんとかしよう」 シー ン53 どこかのコンピュータルーム 大杉と数人の学者がモニターを見つめている。 画面には関東地方の地図が表示されており、道路や鉄道の路線図と人口密度を示す色分けがある。 学 者1(女性)「まずは、日塚村から半径100キロの住民をコンディションイエローと指定して、いつでも動ける状態にしないと」 学 者2「そりゃぎりぎりだろう。イエローは半径200キロだ」 大 杉「うーん、いずれにしても東京が含まれますね。こりゃ厄介だ。ガエンの移動速度をどれぐらいと見ますか?」 学 者3「山から出てきたときのビデオを解析した結果、全速で時速150キロというところですよ」 大 杉「え? あの大きさでその程度ですか」 学 者2「断定は出来ないがね。体が大きくても重力加速度は一定だからね。体が大きい分相対的にゆっくり落ちることになる。月面で走 ることを想像してみたまえ。そんなに速く足で地面を蹴ることは出来ないだろう。時速400キロだの500キロだのということはな い」 学 者3「そう。月面と違って空気抵抗もあるし、もし、飛び跳ねるように走ってもそんなにスピードは出ないですよ」 大 杉「それでも、現状で半径50キロ圏内は完全退去ですよね」 シー ン54 テレビ画面 さまざまな場所(マンションの一室、田舎の一軒家、電気屋の展示品…)にあるテレビに総理大臣が映っていて語りかけている。 総 理「テレビ・ラジオを常につけ ていてください。外出するときには携帯ラジオを用意して下さい。正確に情報を得る努力をしないと逃げ遅れます。また自分がいる場 所に避難命令が出たら必ず 近くにいる人にも声をかけましょう。地震や台風、洪水とは性質の違う災害が起こる可能性があります。怪物の姿が見えないからと いって安心してはいけませ ん。避難命令には絶対にしたがうことです。自宅周辺はもちろん、出先での避難車輌集合場所を確認するのを忘れないでください。も ちろん、政府はガエンを日 塚村で撃滅する努力をしています。みなさんが避難する必要がないように頑張っています」 シー ン55 ガエンの穴・日中 穴の奥から顔を出すガエン。 シー ン56 日塚村 村外れでガエンを監視している自衛隊。 前回の攻撃時を超える戦力が集められている。戦車多数、自走多連装ロケット発射機多数。またコンクリートでトーチカも設置されて いる。 遠くに穴から顔を出したガエンが見えている。すぐに引っ込むガエン。 シー ン57 ガエン対策本部(浦山市) 急ごしらえの本部。種々雑多な机や椅子が広い部屋に運び込まれていて、乱雑に並べられたパソコンが多数。 多くの人が忙しく動き回っている。 その中にぐったりした顔で椅子に沈み込んでいる大杉。火のついていないタバコをくわえている。 大 杉「(独り言)半径200キロの避難用車輌はなんとかなった、と。これでガエンがぜんぜん動かなかったら、おれが引責か…。頭で も丸めるか…(力無く笑う)」 大杉の携帯電話が鳴る。電話に出る大杉。 大 杉「(カラ元気)はいどうも!大杉です。…ああ、川島さん?」 シー ン58 牙焔神社境内 川島陽子が携帯電話で話している。背後では太鼓の音や祈祷の声。 川 島「金山さんが、変なことはじめてますよ。対策委員会は知ってるんですか?」 川島の視線の先では、十数人のさまざまな祈祷師・霊媒師がそれぞれのやり方でなにやら儀式を執り行っている。その傍らに立つ金 山。 シー ン59 ガエン対策本部 立ち上がっている大杉。 大 杉「(電話に向かって)すぐそっちへ行きますよ。(周りの誰かに向かって)これから牙焔神社へ行きまーす」 と 走り出す。 シー ン60 牙焔神社 乗り付けた車から飛び出して走ってくる大杉。 川島、大杉を見つけて軽く手を振る。 川島のそばに来た大杉、祈祷師の集団を見て絶句。 川 島「あそこに金山さん」と指さす。 大杉、金山へ歩み寄る。 大 杉「やあどうも。ここは危険ですから帰ったほうがいいですよ」 金 山「何を言うか。ガエン退治の切り札だぞ」 大 杉「はあ?」 金 山「悪霊を退治するには加持祈祷しかないだろう」 大 杉「いい加減にして下さい。一体誰が許可したんですか」 金 山「(鼻で笑う)ふん。ちゃんと県知事の許可をもらったよ。邪魔しないでくれ」 大杉が言い返そうとしたとき、周囲からどよめきが起こる。 「お お!」「あ!」「ひっ」などなど シー ン61 ガエ ンの穴 穴から顔を出しているガエン。首を振り振り。そして「ずるずる」という感じで穴から這い出してくる。 シー ン62 牙焔神社 自衛官が報告している声「ガエン出現。空自に連絡。監視隊は攻撃開始」 祈祷師の集団、わずかに動揺。変わらず祈祷を続けている者もいるが、腰が引けている者も。 金山、勝ち誇ったような顔。 金 山「どうだ。やつは苦しんでいるぞ」 大 杉「穴から這い出しただけでしょ」 と 言いながら携帯電話を操作。 大 杉「(電話の向こうへ)こちら大杉。半径200キロ圏内コンディションレッド!」 シー ン63 村外れの自衛隊(監視隊) コンクリート製のトーチカから機関銃や大砲を撃つ監視隊。 ロケット弾一斉発射。 以前の交戦で焼けてしまった森の焼け跡を通ってガエンが迫ってくる。そこへ砲弾やロケット弾が次々と着弾。吠えるガエン。 シー ン64 牙焔神社 山の方を見ている人々。 川 島「こっちへ向かってくる!」 大 杉「逃げなきゃ」 二人、その場を離れる。 まわりではすでに退去しはじめているマスコミや自衛官。祈祷師にも儀式をやめて逃げ始めるものも。 金 山「(大声で)みんな、ここを離れるな! この神社が一番安全なのだ」 境内のはずれで、自衛隊のジープに同乗させてもらおうとしている大杉と川島。 大杉、振り返って顔をしかめる。 大 杉「(運転手へ)この人(川島)をお願いします」 そして境内の方へ戻っていく。 シー ン65 村はずれ 自衛隊のトーチカをいまいましそうに踏みつぶしているガエン。尻尾でなぎ払うような動きも。 砲弾はガエンを捉え続けている。ロケット弾は誘導式で、弧を描きながら当たるものもある。 ガエン、熱線でうるさい戦車やロケット発射機を焼き払う。 そして再び神社方向へ歩き出す。 シー ン66 牙焔神社 祈祷師たちも悲鳴を上げて全員逃げていく。 金山一人がその場にとどまっている。 金 山「馬鹿っ。動くと却って危ないぞ!!」 そこへ駆けつける大杉。 大 杉「なにやってるんですか。逃げなさい!」 金 山「牙焔蟻が自分の社(やしろ)を壊すわけがない。ここが一番安全なのだ」 大 杉「(ブチ切れる)いい加減にしろ!!」と金山の胸ぐらを掴んで引きずろうとする。抵抗する金山。 ガエンの吠え声がすぐ近くで聞こえる。見上げると本殿の真後ろにガエンの姿。 息を飲む大杉。 大 杉「危ない!」 とっさに金山の顔を平手打ちする大杉。金山、びっくりして体の力が抜ける。それを引きずって走る大杉。 ガエン、本殿にのしかかるように歩を進める。きしみながら崩壊する神社。 破片が降りかかる中、参道から外れた林に逃げ込む大杉と金山。二人の背後をガエンが歩いていく。 振り向く二人。 金 山「信じられん。いままで絶対に神社は襲わなかったのに」 大 杉「(恐怖から立ち直って逆上)馬鹿野郎!!! そんなもの偶然だよ! あんたたちはいつもそうだ。なんでもかんでも人間の枠で しか考えない。怨霊? 心霊? 恨み? みんな人間のやることじゃないか!!」と金山を突き飛ばす。 大杉、少し落ち着いて、息を整えながら抑えた調子で言い捨てる。 大 杉「大自然は、もっと不思議なものなんだ」 金山を捨て置いてその場を去る。 シー ン67 飯能市あたり 上空から見た暴れながら歩くガエン。建物がつぎつぎと倒壊。 ガエンが通った跡では火災も起こっていて、黒い煙がもくもくと上がっている。 シー ン68 どこかの避難車輌集合場所 大型トラックにつぎつぎと乗り込む人々。背後では発車していくトラックも。集合しているトラックはさまざまな大きさのものが混在 している。 シー ン69 幹線道 びっしりと並んだ車(トラックも乗用車も入り混じって)がすべての車線を使って一方向へ流れていく。 シー ン70 自衛隊による監視ヘリコプター内(高度3000メートルほどを飛行中) 大杉と川島も乗り込んでいる。 ヘッドセットを片耳に当てて報告を聞いている大杉。 大 杉「(ヘッドセットのマイクに向かって)順調? 良かった。いまのところガエンはまっすぐ歩いてますね。それで、空自とはちゃん と連絡取れてますか?……はい、…はい。それじゃまた」 と、 ヘッドセットを同乗している自衛官に返す。 シー ン71 多摩地区(調布あたり?) 歩くガエンの様子。 押し崩される建物、尻尾で叩かれる建物、踏みつぶされる民家、目立つ建物には熱線を浴びせて燃え上がらせる。 シー ン72 監視ヘリ 双眼鏡で下方を探している自衛官。 双 眼鏡の自衛官「空自が来ましたよ」 そちらのほうを見る大杉と川島。 シー ン73 監視ヘリから見た戦闘機隊 東京湾の方向から接近してくるF15とF4の編隊。(全部で十数機)地上を背景に見えている。(戦闘機隊の高度は監視ヘリより低 い) シー ン74 戦闘機隊 ガエンに向かってすーっと高度を下げる戦闘機隊。 シー ン75 大田区あたり? ずしずしと歩くガエン シー ン76 戦闘機隊 つぎつぎとミサイルを発射して上昇&反転する。 シー ン77 ミサイル命中 いらいらとあたりを見回しながら前進し、さわるものを次々と壊していくガエン。そこへミサイル群が殺到。 爆発・爆発・爆発!! 当然まわりの建物も一緒に大爆発。 シー ン78 監視ヘリ 大爆発の様子を上空から見ている大杉たち。 大 杉「ひどいことになった。これで死ぬか?」 シー ン79 ガエン 爆発による炎と噴煙の中から乱射されるガエンの熱線。 斜め上空に向けて発射され、そのまま振り回すように地上もなめ回す。 シー ン80 熱線による被害。 熱線が当たってつぎつぎと燃え上がったり、融けたり、爆発する地上物。 シー ン81 監視ヘリ 青ざめる川島。 川 島「あれでも死なないの?」 大 杉「打つ手なし、か」 シー ン82 ガエン ミサイル爆発の煙が晴れてきて、ガエンの姿が見える。 ガエン、戦闘機隊が去った方向を見上げ、ながながと吠える。 そして猛然と走り出す。 シー ン83 ガエンの足元 地面に爪を食い込ませて、ぐいぐいと蹴り出すガエンの足。振動で崩れる建物。 シー ン84 川崎市の海縁 海岸の工業地帯に出てくるガエン。 京浜運河を目の前にして立ち止まる。運河の向こうにも工場群。 落ち着かない様子で辺りを見回すガエン。 火災の音や消防車のサイレンなどがうるさく聞こえる。 尻尾をどんと地面に叩きつけるガエン。 大きく息を吸い込んで、運河の向こうの工業地帯に熱線を吐きかける。 シー ン85 燃え上がる工業地帯(精油施設など) タンクやパイプが赤熱し、爆発&溶解。コンクリート製の建物は熱線の衝撃で粉々に吹き飛ぶ。巨大な火柱があちこちから上がり、火 の海となる。 シー ン86 京浜運河 ガエン、歩いてきた方向を振り返って、淋しげに一声鳴く。 そして、するりと運河に身を滑り込ませて東京湾内に泳ぎ出ていく。 シー ン87 監視ヘリから見た東京湾 ガエンの航跡が浦賀水道から外洋へ出ていく。 シー ン88 監視ヘリ 大杉、無線のヘッドセットを装着している。 大 杉「…はい、…はい。それじゃ、避難民に犠牲者は出なかったんですね。…このあと海自が対潜哨戒機で引き続き監視するはずで す。…それでは」 川 島「避難計画がうまく機能したんですね。おめでとうございます」 大杉、厳しい表情。 大 杉「ぜんぜんだめだ。これほどの大被害になるとは予想していなかった。被害はまだまだ広がるよ。火災は収まった訳じゃない。家や 財産を失った人々のこれからの生活は一体どうなるのか…」 川島も浮かない顔になる。 川 島「ガエンを退治する方法も見つかっていませんものね。また現れたら同じ事が起きる…」 シー ン89 被災地空撮 かなり高い高度からガエンが通った道筋を見渡している。 東京湾から北西に向かって、火災の帯が続いている。黒煙が風に流されながら立ち上っており、その根元にちろちろと炎も見える。 完 |
期日の関係で極めて短期
間に書いたものなので、今読むと不備があります。もし、映像化するならこのままでは物足りないです。 webで公表すると部分的にでも模倣しようとする輩が出てくる可能性はありますが、全体を正しく直すことは私にしか出来ませんので、浅は かなパクリはやめましょう。(あははは。誰がパクるかよ!) 2005年11月 |