注 釈はこっちにあります

   ゴジラ対キングギドラ(1985年春の作)

                       津川 康

 

  1.謎の物体

 

 太陽。熱と光が荒れ狂い、吹き上げた炎もすぐに引き戻される高重力。

 その表面の無数の小爆発の中で、異様に強く輝くものがあった。その中から太陽の引力をあざ笑うかのごとくひ とつの小さな物体が炎の尾を引いて飛び出した。太陽に対しては確かに極小な存在であった。

「おい、いたずらはよせ」宇宙服に身を固め軌道上で船外活動をしていたスペースシャトル飛行士は船に発信し た。船からむっとした返事が返る。

「今の電子音はこちらからじゃないぞ。お前に文句たれようとしてたところだ」

 遊泳中の飛行士は思わずあたりを見回す。足下には見慣れた地球が青く広がり、頭上では大気を経ない太陽が強 烈にまぶしい。シャトルは左後方に斜めになって浮かんでいる。

 と、再びヘルメットの中にかん高い電子音が響く。それに重なってシャトルからの緊迫した声が叫ぶ。

「巨大な物体が太陽の方向から接近中。強い電磁波を出しているぞ。速い!!衝突する」

 飛行士が見上げると、目の前が真っ暗になった。何ものかが、視界を覆いつくしているのだ。一層強く電子音が 鳴り響く。そして、シャトル搭乗員の絶叫が。

 稲妻のような黄色い光束がスペースシャトルに襲いかかっていた。光が触れると船体は粉々にけしとび、外宇宙 へと吹き飛んでいった。

 

 日本~東北地方。青森県と秋田県の境に位置する十和田湖。

 今、十和田湖に至る道路はことごとく封鎖され、自衛隊による監視の目が光っていた。

 その十和田湖畔に、報道関係者を乗せた自衛隊のトラックが到着した。毎朝新聞の酒井と助手でカメラマンの万 城目もその中に乗っていた。

 湖畔の住民はすべて退去させられ、目につくのは国防色の自衛隊員だけだ。

 十和田湖は原因不明の放射能を帯びはじめたのだった。湖水で泳いだ者は続々と放射線障害を起こし、生息す るヒメマスやニジマスも次々と死んでいた。政府は事態を重く見て、十和田湖地区を隔離し、大規模な調査団を送り込んだのだ。調査団はもちろん核物理学 者や 地質学者が主であった。

 酒井は学者たちの中に見知った顔を見つけた。生物学者の志村博士である。志村は生物学者ではあったが、この 十数年間は専門外の物理、化学、地学、さらになぜか哲学の研究に多くの時間を費やしている変わり者だった。

「志村博士、放射線医学の博士号でも狙ってるんですか」酒井と万城目が博士に気安く声をかけると、博士の助手 の滝沢桂子が肩をいからせて現れた。

「博士が何を研究しようと勝手でしょう。生物学者がウィルソン霧函を覗いちゃいけないとでも言うの?」(注・ 研究室の助手が「博士」を博士と呼ぶことはまずないそうです。通常は「先生」と呼ぶらしい。そんなこと、執筆当時は知らなかった)

「まあまあ」となだめる志村。

 そんなとき、記者仲間の一人が血相変えて本部にとびこんできた。

「社と連絡をとってきたんだが、大事件が起こったぞ。アメリカのスペースシャトルが正体不明の物体に破壊され たらしい」

 

 大都市ロサンゼルスは夜も眠らない。行き交うヘッドライトに人々の姿が浮かび上がる。街角のスタンドにはス ペースシャトル破壊を報じる新聞が感情的な見出しを並べ立てている。その熱に浮かされたような文明都市に空から何者かが迫っていた。

 人々は耳慣れない発振音に空を見上げた。雲に閉ざされた暗い夜空から響きわたる電子音は宇宙飛行士が耳にし たものと同じだった。

 深夜の騒音に、抗議の電話が警察にかかり始めたとき破壊が訪れた。

 雷光状の黄色い光条が三本、天から降り注ぎ、すべてのものを引き裂き宙に舞いあげた。その光線に触れたもの は内側から膨れ上がるように爆散し、急速に上昇しながら地球の自転とは反対の方向に飛んでいった。ロサンゼルスは地球上から完全に消滅した。

(注・この原稿を書いたあとでロサンゼルスは夜には静かになる街だという話を聞いて慌てました。実際はどうな んでしょう?私は行ったことがないのでわかりましぇーん)

 

 ただちに国連会議が開かれた。アメリカ代表は軍のレーダーによる「物体」の記録を発表し、各国の科学調査 協力を求めた。不思議なことに共産圏に対する非難、あてこすりは全くなかった。事前に米ソ間で何らかの接触があったようだった。また、ソ連代表からは 自国 の人工衛星がいくつか破壊されていたことが明らかにされ、米ソの対立とは無関係な事件であることが示された。この破壊行為は外宇宙からの攻撃か、はた また 未知の自然現象なのだろうか。

 その会議には各国の科学者も参加していたが、日本代表の中に志村博士の顔もあった。十和田湖での調査を助手 の桂子に任せて国連に飛んだのだ。志村は米ソの態度に不自然さを感じる。

「もっと情報を公開すべきだ。アメリカとソ連が全力を挙げて、たったあれだけのことしか掴めないはずがない」 と食い下がる志村に両国代表は冷たかった。

「我々は秘密など保持していません」

 その時、オーストラリアのメルボルンが壊滅したというニュースがもたらされた。標的は全世界であった。

 

   2.ゴジラ発見

 

 十和田湖の湖水は時々青白く光った。また、巨大な泡が浮かび上がってくることもあった。酒井らはそんな模様 を逐一社に送った。

 酒井と桂子は取材を通じてかなり親しくなっていた。

「君はどうして志村博士の研究室に入ったんだい?」「もちろん、博士の研究に共鳴したからよ」「ネクシャリズ ム?」「諸科学の垣根を取り除いて全体を一つの目で見ようって、あれ? そうじゃないわ。やってることは似たようなものだけど」「じゃあ一 体・・・・」

「怪獣よ」「怪獣!?」「そう。博士は生物学者として怪獣の研究を始めたの。ところが研究が進むにつれて、生 物学だけではどうにも歯が立たなくなってきたのよ。怪獣を生物学の網でどう押さえ込もうとしても、何かがはみ出すの」「しっぽや、背ビレが?」

「ふふ、そんなところね」

「だけど、怪獣ってのは恐竜の生き残りの突然変異なんじゃないかい」「突然変異というのは多分当たってるんで しょうけど、決して恐竜じゃないの。志村博士はこう言ってるわ。怪獣は生物であって生物でない。従来の生物学においては電子のごとき存在だ」

「位置を決めれば運動量がわからなくなり、運動量を定めれば位置がぼける、か」

「不確定性生物」

「ふう。英文科出の俺には頭が痛くなる話だ。今度、博士にじっくりお伺いするよ」「そうね」

「・・・・待てよ。怪獣博士が十和田湖の調査。放射能・・・。桂子さん、まさか」

「もうよしましょ。明日の準備があるからこれで失礼するわ」

 次の日は潜水調査であった。厳重にシールドされた潜水球で湖底の放射線源を探るのである。乗員は三名。潜水 球のオペレーターと物理学者の田辺博士、そして報道関係者が一人。くじ引きで酒井が当たった。

 遊覧船で湖の沖へ運ばれた潜水球は三人を乗せてゆっくり沈んでいった。

「田辺博士、やはり天然の放射性物質でしょうか」酒井が話しかけても物理学者は渋い顔をしたままだった。

 放射線のもっとも強い水域で潜水した潜水球は放射線ソナー(注・なんのこっちゃ?)の指示に従って頭上の船 に移動してもらい、徐々に放射線源に近づいていった。強力な照明に湖底の岩が浮かび上がる。十和田湖はカルデラ湖であるために、湖底はごつごつした熔 岩である。

 ソナー(注・だからなんのこっちゃっつーの。ソナーとは音波探知機の総称である)の針が跳ね上がった。そ して、異常な水流も感知される。ライトが回されて、異状を探す。潜水球のライトが、岩ではない何かをとらえた。それは湖底に山のように盛り上がってお り、 まわりの岩とは明らかに異質なものだった。

 酒井が目を凝らしてよく見ようとしたとき、「それ」が青白く輝いた。全体ではなく、不規則な形をした板状の 部分が内部から光を放ったのである。その光は、潜水球のライトより十分にその本体を照らし出した。

 ゴジラが湖底にうずくまっていた。

 

   3.謎の物体の正体

 

 謎の物体による破壊はとどまることを知らなかった。メルボルンのあと数日おきに世界中の大都市が一つずつ 襲われていった。国連に設けられた対策委員会はその破壊の性質や周期を明らかにしようと懸命だった。そして、委員会の意見は外宇宙知性の侵略あるいは 破壊 活動ではないかという方へ傾いていった。自然現象が都市や軍事施設だけを狙うとは考えられなかったのである。

 しかし、志村博士はあることを恐れていた。

「敵が科学技術を用いて襲ってくる知性体ならば人類にも勝ち目があるかもしれない。しかし、我々が属する宇 宙~自然の因果律を超えた存在が相手だとしたら・・・・」

 日本政府はゴジラ発見を秘密にした。十和田湖入りした報道関係者は自衛隊によって「保護」された。外部との 接触は許されなかった。

 

中華人民共和国の人民解放軍の戦闘機が数機、スクランブルで発進した。ソ連との国境、アムール川上空でソ連 機が戦闘行為を始めたらしかった。レーダーに映る影は超音速で急旋回を繰り返しながらミグの追撃をかわしている。まるで慣性の法則を無視するかのよう な振 る舞いだった。人民解放軍のパイロットは基地から告げられる前に気づいた。これは、あの物体に違いない。

 戦闘空域が目視できるまで近づいた。通信機に妨害電波のような電子音が割り込む。そして、ミサイルの空中爆 発の煙の中から黄色い稲妻が断続的に放射されている。ソ連機はそこへむけて次々とミサイルを発射していた。

 しかし、素早く動く稲妻に一機、また一機と破壊されていった。爆発したミグの破片は何かに衝突してはじき 返されたように進行方向とは反対の方へ吹き飛んでいった。物体は中国領空へ侵行しつつある。ソ連機のミサイルが尽きたか、全滅したか、爆発が止んだ。 煙が 吹き払われていく。次第に謎の物体が姿を現す。

 まず巨大な脚が見えた。黄金の鱗に覆われた鋭い爪を持つ太い二本の脚。そして、二本のしなやかな尾。左右 に膨らみをもつ胸が現れ、その両側では翼竜のように薄く巨大な翼が羽ばたいている。それらの上で狂ったように、長い首がのたうっていた。三本の龍の首 が。 宇宙の悪魔キングギドラが再び地球に現れたのである。

 中国機は写真撮影ののちすぐさま引き返した。戦いを挑むのは無駄というものだ。

 

謎の物体がキングギドラであったことは全世界に衝撃を与えた。キングギドラに和平交渉など通じない。国連の委 員会は対キングギドラ委員会と名を改めた。

 国連の委員会に参加している志村博士にはゴジラ発見のニュースは知らされていなかった。ただ、政府派遣の竹 中はすべてを知っており、ことの重大さに一人で苦しんでいた。

 対キングギドラ委員会ではギドラ撃退の案が検討された。やはり抹殺のためには人類最大(そして最悪)の武 器、核兵器を使うしかない。しかし、ギドラが現れるのは大都市あるいは軍事施設などおよそ核を使用できる場所ではない。そこでギドラおびき出し作戦が 考え られた。キングギドラが襲った地区(大都市、基地など)はいずれも熱、光など放射エネルギーを大量に発するところだった。その点から巨大な電磁波発生 装置 を絶海の孤島に建造し、地球上で最も強いエネルギー場を作ってやれば必ずやギドラはそこを襲い、同時に核の総攻撃を加えることも出来ると結論された。

 志村博士はその計画に反対した。たとえ狭い地域であっても多数の核爆発が起こればどんな影響が出るか計り知 れない。しかし、各国代表はとりあわない。

「核実験だと思えばよろしい」「日本人の核アレルギーですか」

 そして、おびき出し作戦は実行されることになった。

 選ばれた島はかつて国連指揮で気象コントロール実験の行われたゾルゲル島である。そこにはまだ資材が残され ており、装置の建造が容易と思われたのだ。

 志村博士はつぶやく。「・・・・これでギドラが倒されれば喜ぶべきことかもしれん。しかし、本当にギドラは 放射エネルギーに食らいつくのか。キングギドラが「都市」を狙っているのだとしたら・・」

 会議の終わりに何気なさを装ってソ連代表が言った。

「ところで、ゴジラはどうしているんでしょうな。ゴジラならキングギドラを撃退できるかもしれないですね」そ して、竹中のほうをちらりを見るのだった。

 

「総理、米ソはもうゴジラの存在に気づいております。ゴジラをギドラにぶつけろと」

「ばかな。今ゴジラを目覚めさせれば、ギドラと戦うかもしれんが、被害はギドラ一匹の比ではない。ゴジラは隠 せ。隠し通すんだ」

 

   4.ゴジラ目覚める!!

 

 某国極秘会議

「ゴジラの所在地は確かなのだな」「はい。日本の湖に潜んでいるようです」「どんな手段を使っても良い。ゴ ジラを復活させろ」「そうだ。怪獣は互いを察知する超感覚をもっていると聞く。ゴジラが目覚めれば、キングギドラは日本へ行く」「世界は助かる」「日 本の 国力が衰えれば、我が国が世界経済を牛耳ることも可能だろう」「わかりました。ゴジラをたたき起こしてやりましょう」

 

 外部との接触を禁じられてでいたが、十和田湖の報道陣には比較的自由があった。取材も出来ないことはなく、 どうやら政府もいずれはゴジラ発見のニュースを発表するつもりらしかった。

 眠れぬ夜に酒井はテレビの深夜ニュースを見ていた。高エネルギー発生装置の建設の模様が伝えられている。 と、表がなにやら騒がしくなってきた。自衛隊員たちが落ち着きなくばたばたしている。酒井は飛び出した。

「何かあったんですか」「民間人は宿舎に戻って下さい」「取材ですよ」

 湖畔まで出てみたが、湖に異変はない。しかし、暗い夜空から爆音がきこえる。ジェット機だ。国籍不明の戦 闘機が一機、急降下してきた。追撃する自衛隊機。しかし、敵の速度についていけない。ミサイルもアンチミサイルで撃破されてしまう。不明機は十和田湖 の水 面に大型の爆雷らしきものを投下して急上昇する。付近に衝撃波が走る。そして、湖底で閃光が起こり、すさまじい爆音とともに水柱が上がり大量の煙が吹 き上 げる。謎の戦闘機は再度爆雷を投下する。光、音、爆風。もう一度降下しようとするが、自衛隊機に阻まれてうまくいかない。上空でドッグファイトが展開 され る。しばし湖の波はおだやかになる。と、爆雷が落とされたわけでもないのに水中が青白く輝いた。そして、泡が吹き上げる。巨大な泡だ。さらに強烈な光 がス パークする。そして、ひときわ大きな泡が盛り上がったかと思うとその中心を割って、青白く光る霧のようなビームが空へ向かって放射された。ビームは正 確に 上空の戦闘機たちを襲った。激しく爆発が起こる。空が燃える。

 ビームがほとばしったところからすーっと潜行波が岸に迫ってきた。その波の先端の水が盛り上がる。黒い巨大 な影が身を起こす。あたりを揺るがす咆哮。ゴジラだ。ゴジラが目覚めてしまったのである。

 

ゴジラに関する報道管制は解かれた。ゴジラは食物を求めて奥羽山脈を南下した。野生の動物や家畜が餌食とな り、人々は逃げまどった。ゴジラを秘密にしていた政府を非難する余裕などない。酒井らはゴジラ班としてゴジラ情報を社に送り続けた。滝沢桂子や関連の 科学 者たちはゴジラ対策委員会を作った。

 ゴジラは十和田湖での怒りが静まると、比較的おとなしく活動していた。長年の経験から自衛隊も下手な手出し はしない。監視体制を整えてできるだけ静かに行動した。

 国連から志村博士が帰ってきた。「キングギドラはゴジラに挑むだろう。奴は日本に来る。ギドラ対策はゴジラ 対策だ」

 ゴジラは二~三日食べ歩くと、満腹になったのか、蔵王付近で停止し眠り始めた。

 

   5.キングギドラ対ゴジラ

 

 キングギドラによる襲撃も小休止したらしく、ゴジラの沈黙とともに世界は不気味な静けさに包まれた。人類 はこの隙に体勢を立て直そうと躍起になった。ゾルゲル島では全世界の資力を投入した高エネルギー発生機が急ピッチで建造され、国連の対ギドラ委員会は 日本 へ移され、ゴジラ委員会と合併されて、怪獣対策委員会となった。今や、人類は一つにならねばならないのだ。

 アメリカの動物学者ベイリー博士は志村の私室を訪れた。

 ベイリーはアメリカでは以前から怪獣コントロールの研究が行われていたことを打ち明けた。ペンタゴンでは怪 獣こそ核を超える兵器だと考えていたというのだ。憤りを感じる志村。ベイリーは続ける。

「実はすでにコントローラーの試作品が完成しているのです。これをゴジラに用いて、より被害の少ない地域でキ ングギドラと戦わせてはどうでしょう」

 志村は本当にゴジラをコントロールできるならその計画には賛成だ、と言う。

 ベイリーは資料をすべて志村に渡し、志村の研究として委員会に提出するよう頼む。

「私は、アメリカ市民としてより、人類の一人として行動したいのです」

 そして、ベイリーは姿を消した。

 ベイリーは研究の過程については一言も言わなかった。ただ、ソ連も同様の研究をしているらしいとだけ漏らし た。

 志村は考えた。怪獣による力の均衡か。両国がともに怪獣兵器をもつ。他の国にはない。世界が二国の言いな り。もし、双方が世界の半分を支配することで満足したとしたら。米ソが協力して研究を。キングギドラで実験しようとしていたのでは・・・。

 疑惑はそのままに、ゴジラコントロール作戦は実行に移された。

 

 ついにキングギドラはゴジラに気づいた。各国の協力による国連のレーダー網は成層圏を気ままに飛んでいたギ ドラが突如として高度を下げ日本へ向かいつつあることを知らせた。

 その頃、蔵王では休眠状態のゴジラにコントローラーを取り付ける作業が進んでいた。ゴジラの頭部に電磁神 経刺激機を取り付け、自在に快感と苦痛を与えることによってゴジラの行動を規制するのだ。作業員は静寂を守るため、ヘリ、クレーン等を使わず直接ゴジ ラの 身体をよじ登った。放射線防御服は動力をもっていて、人間の力を増幅させる。

 作業員たちがゴジラの肩まで登ったとき、ギドラ接近のニュースが入った。

「危ない。早くゴジラから降りるんだ」しかし、人々が見守る中でゴジラは覚醒し、ギドラを察知して猛り狂っ た。放り出される作業員。

 自衛隊の攻撃にも動じずに、ゴジラは仙台へと進撃した。進路にある巨大な物、鉄塔、高速道路などをなぎ倒 し、焼き払いながらますます怒りを燃やすゴジラ。

 ゴジラが仙台に暴れ込んだとき、天から電子音が鳴り響き、一陣の風とともにキングギドラが舞い降りてきた。 仇敵を前にして一瞬睨み合う二頭。

 そして、すさまじい闘いが始まった。ゴジラの尾がギドラをとらえたかと思うと、ふわりと飛び上がったギドラ は三本の首でゴジラに頭突きを繰り出す。よろめいたゴジラとともにビルが崩れ去る。そのゴジラにのしかかるギドラ。三度、四度と足を踏み込む。

 と、飛び退くギドラ。ゴジラの放射火炎がギドラの胸を焦がす。格闘はほぼ互角であった。このままでは勝負 がつかぬと見たか、ギドラは空へ舞い上がり、引力光線による絨毯爆撃を始めた。三本の光条がゴジラの周囲で躍り、ゴジラの体に火花が散る。無数の爆発 で飛 散する破片がゴジラに降り注ぎ、煙が息を詰まらす。どうやら第一戦はゴジラ劣勢のようだった。あざ笑うように旋回するギドラ。倒れる寸前にゴジラはギ ドラ に対し最大級の放射火炎を浴びせた。がくりと高度が落ちるギドラ。それを見て安心したように倒れ込むゴジラ。砂塵が上がり、その向こうに太平洋上へ去 るギ ドラの姿があった。

 

   6.キングギドラ、核を葬る

 

 ゾルゲル島の高エネルギー発生機が完成した。志村はゴジラコントロールが成功しそうなので核攻撃は待って 欲しいと申し入れるが聞き入れてもらえない。そして、ゾルゲル島から大量の放射エネルギーがまき散らされた。志村はゴジラにコントローラーを取り付け る作 業を急いだ。仙台でゴジラは倒れたままだ。

 はたして、キングギドラはゾルゲル島を狙って飛来した。世界の核ミサイルは照準をギドラに固定している。 ギドラがゾルゲル島上空に到達したとき、ミサイルは一斉に発射された。ギドラはエネルギー発生機に引力光線を放射する。電磁バリアがかろうじてギドラ の光 線をそらす。迫るミサイル。誰もがギドラもこれまでだと思った。

 が、弾道ミサイルがギドラに向けて降下し始めたとき、ギドラは三本の首をそろえて考え込むように天を見上 げた。一瞬のち、ギドラの首は猛烈に動きながら四方八方の空へ光線を吐き散らした。飛来する弾頭の数だけビームが飛び去った。ビームは正確にすべての ミサ イルをとらえた。核弾頭は地軸に対する力学的ベクトル(運動量および加速度)を反転させられた。地球の自転とは逆の方に螺旋を描きながら宇宙へ落下し てい く。1Gの加速度で。

 核攻撃は失敗した。電磁バリアの屈折率を読んだギドラは引力光線を放射する角度を加減して、エネルギー発生 機を破壊した。

 その頃、ゴジラコントローラーの準備が整っていた。作業員が退去し、ゴジラに覚醒刺激を与えようとしたと き、ゴジラの角板が強烈に光を放った。ゾルゲル島で破壊された装置が蓄積していたエネルギーを一挙に放出し、それがゴジラに影響したのだ。

 

   7.人類の勝利か?

 

 最後の決戦が迫っている。ゴジラは人間に誘導され富士山麓に落ち着いた。ゴジラの怒りが故意に高められる。 その脳波はキングギドラに達した。再びギドラは日本を目指す。

 両怪獣の激突は正に地軸を揺るがすものだった。ゴジラは新たに受けたエネルギーで以前より強くなっている。 キングギドラは少しずつ退却し始めた。しかし、山麓を離れると都市があり、人がいる。ゴジラの行動に規制が加えられる。都市破壊を避けねばならない。

ゴジラの動きが鈍り始めた。何度も頭を振る。ギドラが逆襲をはじめる。二頭は徐々に東京に近づいていた。

 コントローラーがゴジラの神経を阻害しているのだ。思うように戦えないゴジラはいらだっていた。キングギ ドラの攻撃は熾烈を極めた。とうとう川崎付近で二度目のダウンをしてしまうゴジラ。これは精神的なものである。そのゴジラにとどめを刺そうと引力光線 を吐 き、蹴り、ぶつかるギドラ。

 ゴジラ自身の怒りが爆発した。強大な脳電流が起こる。その電圧でコントローラーに電流が逆流し人類のメカは 破壊してしまった。勢いよく立ち上がるゴジラ。うろたえる人間たち。もはやゴジラの力をおさえるものはない。ゴジラは吠えた。強く、長く。

 ゴジラとキングギドラは東京都心に雪崩れ込んだ。逃げまどう人々には目もくれず、怪獣たちは己の闘いを続け る。大東京は火の海となり、ギドラの黄色い光線とゴジラの青白い放射火炎が交錯する。

 ゴジラがギドラの二本の尾を両脇に抱えて押さえ込もうとすると、ゴジラをぶら下げたままギドラは飛び上がっ た。一本の首で前方を見ながら、残りの首をうしろへ巡らしてゴジラに噛みつこうとするギドラ。

 そこへゴジラは強力な放射火炎を吹いた。気を失ったギドラは翼の反重力を緩めた。

 落下する二頭。(四頭か?)

 キングギドラはゴジラの下敷きになった。そして、闘志も気力も失ったギドラは弱々しく鳴きながら宇宙へ飛び 去った。

 勝ち誇ったゴジラの咆哮が地獄と化した東京に響きわたる。

 人々は呆然としてゴジラを見守るだけだった。思い出したように攻撃態勢をとる自衛隊。が、ゴジラはそんな人 間たちに軽い一瞥を与えただけで、静かに海へ去っていった。

 酒井は志村に言う。

「我々人類は一体何をしたんでしょうか」「何も・・・・。いや、大きなことを成し遂げたよ。怪獣の脅威に対 して全人類が一つになって戦おうとしたじゃないか。人類にとって最も大切なことじゃないのかな。ひょっとしたら、そのために怪獣は存在するのかもしれ ん。・・・・・・・・・きっとそうだ」

 

                          終

(注・今読むと、このラストの台詞は説教くさくていやですな)